定年ゴジラ
重松 清 / 講談社
スコア選択: ★★★★
開発から30年のニュータウン「くぬぎ台」で定年を迎えた4人組の仲間の定年後の生活を、哀感を込めて描いた物語である。
この仲間の一人藤田さんがこのニュータウン建設にたずさわったのであるが 、建設にあたって作ったニュータウンの模型が町内会館に保管されていることがわかり、それを物置からもってきて、ゴジラのように踏みつぶすことからこの物語は始まる。文中にこの題名に関連して次の言葉が象徴的である。「俺たちは定年ゴジラだ。ひたすらなにかを築けあげてきた俺たちが、今初めてそれを壊している」
あらすじは追わないことににするが、定年後のニュータウンの生活、共感できる行動、言葉に思わず肯いてしまう。曰く、悠々とはほど遠い「憂憂自適」とは、その気持がわかって、せつない。「濡れ落ち葉」という言葉も胸に響く。定年退職後、暇を持て余して、人恋しさに妻の出かける先に宛てもないのについていく。車のボンネットに貼りつく、濡れ落ち葉のように。「余生」という言葉も気にかかる。「余生って余った人生だぜ、・・ 俺達がいま生きているのは、自分の人生の 余った時間なんだよ。そんなの楽しいわけないよな」
話は家族のこと、町内のことなどで 、彼らは現役時代に考えられないことに遭遇するが、一つだけ内容に触れることにする。 この小説の主人公と言うべき山崎さんに中学校時代の級友で、あちこちで詐欺を働いているチュウが訪ねてくる。チュウは山崎さんに向かって言う。「ここはいい街だな」 「みんな勝っているだろうな」 「勝っているってなにがだ?」 「いろんなことだよ。だってそうだろう、負けたやつは最初からここに住めないし、途中負けたら出ていかなくちゃいけない。いい街だけど、つらい街だよな」 「別に勝負してるわけじゃないけどな」 「してるよ。自分でも知らないうちに勝負してるんだよ。それで、知らないうちに勝ちつづけてるんだ」
都会でのニュータウン生活者の意識を、著者はチュウを通して言わせている。頑張れなかった人や負けた人を許してくれない街がニュータウンであるというチュウの考えは、この小説のもう 一つの側面として考えさせられてしまった。
それにしても、重松清。
私より少し若かったはずだ。
この本を書いた頃はまだ、
30代じゃなかったのか?
定年ゴジラたちに捧ぐ☆
♪South of the Border