『俳句』  身一つの蛍や夜に嫁ぎゆく

♪聞かせてよ愛の言葉を (Parlez Moi D'Amour)
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            身一つの蛍や夜に嫁ぎゆく  麗蘭





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学生時代、さまざまなアルバイトを経験した。

その中でも、とりわけ印象に残るのは、椿山荘の庭園に蛍を放つアルバイトであった。




アルバイト要員は某大学空手部男子生徒で、
先輩から後輩へ綿々と引き継がれて来た
空手部伝統のアルバイトだという。

私は、主将と幼なじみという特権をフル活用して、
女一匹、潜り込ませてもらったのだ。

空手部男子は椿山荘の塀の外に梯子を掛け、
蛍の入った籠を持ってスタンバイする。

私と数名の男子は、庭園の中に蛍籠を持って隠れた。
これが、黒子の衣装で築山の陰に身を潜めるのだ。
由美かおるばりの、くの一忍者みたいだった。

やがて庭園の灯りが消され、
ほ、ほ、ほうたるこい、、、の音楽が流れると、
われ等アルバイト要員は一斉に蛍籠の蓋を開け、
ぬばたまの闇に蛍を解き放つ。

蛍はふうわりふうわりと闇をただよい、
まるで、夜の闇に嫁いでゆくようであった。

               高尾山 うかい鳥山
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6年前、伯母の七回忌に、
高尾山入り口の「うかい鳥山」へ一族で出掛けた折り、
「ほたる鑑賞の夕べ」なるイベントが開催されていた。

皆で亡き伯母を偲んで会食し、思い出話に花を咲かせていたら、
突然灯りが消えて、野趣に富んだ庭園に蛍が乱舞し始めた。
それは幻想的で、どこかこの世のものではない感じがした。

闇にただよう蛍火を見つめて、
「おねえさんが逢いに来てくれているみたい」
と母は言った。その声は少し泣いているようだった。

 椿山荘

 うかい鳥山 



恋に憧(こ)がれて 鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす

b0048657_5254743.jpgこれは都々逸である。

誰しも恋に落ちれば、相手を独占したいと願い、情欲に溺れる。そして約束を違(たが)えたと不実を怒る。自分の描く理想を相手に押しつけて、相手の欠点を理解しようとせぬ。

近頃は、鳴く蝉ばかりが増えて喧しい。

ただ、そういう恋にも救いがあるとすれば、
愛するがゆえ、相手のために、
自分を犠牲にしようとする心を伴うことだろう。

かつて、村松梢風は、
二代目尾上菊五郎をモデルに「残菊物語」を書いた。
菊五郎の芸を思んばかって身を引く女の物語である。
ロスタンの「シラノ・ド・ベルジュラック」は、逆に、
友情のために身を引く男の物語だった。
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かつて、鳴かぬ蛍は生息していたが、今日、残菊物語を知る者は少ない。

身を引く恋、忍ぶ恋が上等だと言うのではなくて、そういう恋もあって良いと言うだけのことである。

そもそも、恋愛感情など、三年もすれば褪める。一定期間を経過すれば、あらゆる感情が褪めるのは、動かしがたい事実で、恋愛感情も、悲しみも怒りも、変わるところはない。

今日、多くの人が、悲しみや怒りにまかせて行動することには慎重であっても、どういうわけか、恋愛感情だけは特別視して、これに素直に従うことを良しとする。

ロミオとジュリエットは、引き裂かれたからこそ、
永遠の愛を生きることができた。
もし、めでたく両家が和解して、二人が結婚していれば、
蜜月はせいぜい三年であったと思う。



聞かせてよ愛の言葉を

b0048657_17335038.jpg歌人・塚本邦雄の訃報を聞いた。

塚本さんは前衛短歌の旗手とまで
言わしめた歌人であったが、
短歌もさることながら、
その多方面にわたる評論がすばらしかった。

いささか文語調を帯びた
旧仮名遣いの文章には、
陶酔感がみなぎっていた。


とりわけ、私が忘れられないのは、
塚本さんが終生愛したシャンソン、その中で、
リュシエンヌ・ボワイエの「聞かせてよ愛の言葉を」について、
したためた一文である。

  エメラルドとオパールが、
  花影で触れあい煌めき合うような美しい曲

  リュシエンヌ・ドリールはもちろん、
  名手コラ・ヴォケールさえ、
  この歌、この時のボワイエの、
  もろく儚くしかも甘美極まる睦言には及ばないだろう


まさしくこれは、歌人の感性である。


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   聞かせてよ愛の言葉を (Parlez Moi D'Amour)

聞かせてよ 好きな甘い言葉 話してよ いつものお話を
何度でも いいのよこの言葉 「ジュヴーゼーム」

気心 許しちゃいないの そのくせ 聞かされていたい この言葉よ
甘い撫でるよな 囁く小声を聞けば夢見ごこち またも気を許す

聞かせてよ 好きな甘い言葉 話してね いつものお話を
何度でも いいのよこの言葉 「ジュヴーゼーム」
 



昔々、まだ小娘だった私はこの歌を聴いて、
「愛の言葉とは男が囁くものなのか!」
とちょっぴり驚いた。

男の囁く愛の言葉・・・
それがどんなものなのか、
理解するにはまだまだ幼すぎた。

ところが大学生になっても、まーだ判らなくて、
「私、寝物語が好きです」
と言ったら、教授はギョギョッとされた。

そして、諭すように、
「寝物語ってね、男と女がベッドで囁くお話のことだよ」
と言って、ウインクされたのだった。

私はてっきり、ナイトキャップのブランデーのように、
ベッドで読む物語のことだと思っていた。

あー恥ずかしい!

訃報:塚本邦雄さん84歳=前衛短歌の第一人者

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by leilan | 2005-06-11 08:10 | 俳句
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