『俳句』  美貌にも大き口あり芋煮会

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             美貌にも大き口あり芋煮会  麗蘭





「切れ味が悪くなったわ。鰺のたたきを作るとすぐわかるの」
と、母。

「うん。あとで研いでおくよ。」
と、これは父。

わが家では、包丁を研ぐのは父の役目だ。

どこの家でもそうなのかと思ったら、
大抵は「研ぎや」さんに出すものらしい。

うちの父はおそろしく器用な人で、
電気の配線工事なんかプロはだしだし、
電気器具や自動車の故障なんかも直してしまう。
昔は、ラヂオやステレオも作ったりする人だった。
大学も理工学部機械科卒だ。

父の兄が亡くなっていなければ、
本田宗一郎の下で自動車を作っていたんじゃないかと思う。

そっち方面にまるで疎い私は、
複雑な機械を前にしてなんだか愉しそうにしている父が、
それだけでもう尊敬の対象だった。

フランスのコンコルドが引退したとき、
「あの雄姿が消えてしまうのか」
とひどく落胆し、
商売そっちのけで、
コンコルドに乗りに行ってしまったりした。
(コンコルドって、全席ファーストなんだよねぇ)

そこにも、妙なこだわりがあって、
大西洋を飛ぶコンコルドがいいのだという。
それで、わざわざニューヨークのJFKまで行き、
そこからパリのドゴールへと飛んだときは、
父の中に少年を見た思いだった。

「翼よあれがパリの灯だ」
が、父の心の中にある。


包丁で思い出すのは、
堀田善衛が「誰も不思議に思わない」で紹介している
中野重治の逸話だ。

用事があって訪れた堀田に中野は、
「短い原稿を一つ書いてしまうから待っていてくれますか?」
といって台所に行き、包丁を研ぎはじめたという。

包丁の後は肥後の守を、そして小刀と、
中野は原稿を書く前には家中の刃物を研ぐのだ。
堀田は、その後ろ姿を見ながら背筋が寒くなったという。

作品に取りかかる前の儀式に、
中野重治という人の文筆にかける気迫を見る思いがする。

父によれば、
刃物を研ぐ行為には気を鎮め、
何か一点に向かって集中する効果があるという。
集中できないと、うまく研げない。

中野重治の包丁研ぎの話を読んで、
私もこれを体得してみようと思い、
先年、帰国した折に、父の指導を仰いだ。

水に浸しておいた砥石の粗砥の方を上にして、台の上に置く。
包丁の峰と砥石の間に硬貨一枚ほどの隙間をあけ、
刃先を向こうにして手前に引く。

効率を考えて往復して刃物を動かすのは禁物。
必ず手前に引く時にだけ力を入れる。

このとき、刃先の全体が均等に砥石と接するようにしなければ、
刃先が波打つことになる。
漬け物を切って、つながったりするのは、それが原因だ。

両面を研ぎ終わったら仕上げ砥で、仕上げる。
刃先の先にできたバリがここで落とされる。

研ぎ終わった包丁で試しに胡瓜や檸檬を切ってみる。
力を入れずとも、勝手に切片が刃物の上にできている。
ぞくぞくっとする。

俳句は、いまだにこうはいかない。
いつも、どこか不満が残る。
きっと、俳句を作る前に家中の刃物を研がないからだ。

たとえ短い文章にも、
それだけの心構えをしてかかった
中野重治という人の凄さがあらためて分かる。

それを短い文章で書きとめた
堀田善衛という人の観察力にも恐れ入るばかりだ。


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by leilan | 2005-10-27 16:25 | 俳句
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