惚けし母連れて船見る冬鴎 吉田汀史
ボケた母を連れて船を見ている。
海上には冬の鴎が飛び回っている、という光景。
かつて、「東京だよ、おっかさん」という歌があった。
たしか、皇居の二重橋を見るのである。
母と二重橋を見るのも悪くはないが、
私はこの鴎の舞う海の船を見るほうが好き。好みに合う。
しかも、ボケた母を連れて、というところがよい。
船や鴎を見ていたら、「私」は母と、すなわちボケた母と、
ほとんど変わりがなくなるだろう。
吉田汀史はボケることを人間の自然として受け入れているに違いない。
ボケるとはあの世への通路を得ることかも知れない。
その通路からあの世の風がやってくる。
そして、その風はボケた人の心身を吹く。
(冬鴎・冬)