2005年 09月 06日 ( 1 )

『俳句』  妻のある男は帰へる花白粉

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           妻のある男は帰へる花白粉  麗蘭






私がまだ実家で暮らしていた頃、
わが家では佐々木さんという男性からちょくちょく電話を貰っていた。

「佐々木です。社長はおられますか?」
「あいにく父は留守にしております。
お差支えなければ、ご用件を受け賜りますが?」
「副社長に任命されているのに、一向に仕事を命じてくれず、
はなはだ不満です。早急に任務を与えられたい」
とのことであった。

即座に、おかしいなと感じたが、
いちばん長く家にいる母は、
佐々木さんの電話を時々受けているらしく、
「はい、かしこまりました。主人にそう申し伝えます」
と、神妙に、しかも手慣れた感じで応対していた。

実家には、しばしば見知らぬ人から電話がかかってくる。
電話帳には父の名前が登録されているが、
15年くらい前に局番が3桁から4桁に変わった以外は、
祖父の代から電話番号が変わっていない。
セールスの電話に対して母は、
「主人に相談しましてから・・・」
というのがいつもの断り文句なのだが、
母が温和なのをいいことに、しつこいのが相当いる。

そのような中にあって、
佐々木さんの電話だけは愛想こそないものの、
比較的淡白で、簡単明瞭、一風際立ったものだった。

このような印象が、
根底では家族の者に若干の良い心証を
与えていたのかもしれない。
そして、その佐々木さんからの電話が
かかって来なくなったのである。

はじめのうちは、誰もまったく気にしなかった。
以前とて、そう毎日かかってきていたわけではない。
それが数ヶ月もとんと音沙汰がない。

はじめ弟が、ある日、ふと言い出した。
「佐々木さん、元気なのかなあ?」

その一言に触発されたように、
母も私も心配になった。
病気かも知れない。
あるいは、もう亡くなったのでは、等々。
人間関係とは不思議なもので、
迷惑人と言えども、
付き合っているうちに何となく情が湧くものであろうか。

このような状況になると、
「本当にさっぱりとした人であったのに・・・」
などと、母は涙ぐむ始末(笑)
一同大いに心配した次第である。

時は移り、再び春が訪れ、青葉の季節となった。
何故か、昔から言われているように、
この時期になると世の中にはややおかしい行動が増えるようである。

そしてついに、ある日、
佐々木さんから待望の電話がかかった。
家中一同、その無事を知って一安心。
以来、再び、佐々木さんの電話を頂戴するようになった。

たまたま父本人が出ると、
「君は今度の貿易で大きな失敗をしたから、
社長の座は解任された。あとは自分が引き受ける」
というものであったという。

「それは困った。明日から仕事が無くなってしまう」
と、父が答えると、
「出社には及ばん」
の一言で電話が切れたという。

以来、佐々木さんからの電話はなくなった。
佐々木さんが一体誰なのか、家の者にはいまだ判らない。
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by leilan | 2005-09-06 09:58 | 俳句


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