雪女郎おそろし父の恋恐ろし 中村草田男 雪女郎は雪国の妖怪。
雪女、雪鬼などとも言うが、要するに雪の精霊だろう。
優しい面と怖い面の両面をもつが、それは雪というものの二面性だ。
草田男の句は、雪女郎の人を魅了する怖さを父の恋に重ねている。
雪女郎のような女に恋した父は、家族などを捨てて破滅へ深入りする。
それで、「おそろし」「恐ろし」と表現した。
仮名の「おそろし」には雪女郎の美などが、
漢字の「恐ろし」には破滅する父の定めが感じられる。
草田男という俳人はとても大胆だ。
掲句にしても、「おそろし」を2度も使う点が大胆。
それに、「おそろし」のような形容詞は俳句では禁句に属する。
作者の言い過ぎになって失敗しがちだから。
ところが、草田男は「おそろし」を繰り返す。なんとも大胆である。
数年前、父とふたりで飲んだとき、
「お父さん、もし、よそに子供がいたら、知らせておいてくださいね。
もしものことがあったとき、お父さんも逢いたいでしょ」
と訊ねたら、
「いや、子供はおまえたちだけだ」
ときっぱり言っていたが、
かつて、雪女郎はいたであろうと思う。
(雪女郎・冬)