カテゴリ:秀句鑑賞( 61 )

『秀句鑑賞』

 惚けし母連れて船見る冬鴎  吉田汀史


ボケた母を連れて船を見ている。
海上には冬の鴎が飛び回っている、という光景。

かつて、「東京だよ、おっかさん」という歌があった。
たしか、皇居の二重橋を見るのである。
母と二重橋を見るのも悪くはないが、
私はこの鴎の舞う海の船を見るほうが好き。好みに合う。

しかも、ボケた母を連れて、というところがよい。
船や鴎を見ていたら、「私」は母と、すなわちボケた母と、
ほとんど変わりがなくなるだろう。
吉田汀史はボケることを人間の自然として受け入れているに違いない。

ボケるとはあの世への通路を得ることかも知れない。
その通路からあの世の風がやってくる。
そして、その風はボケた人の心身を吹く。

(冬鴎・冬)
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by leilan | 2006-01-23 20:40 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 サラリーマン寒いね東スポ大切に  清水哲男


「東スポ」は新聞の「東京スポーツ」。
吹きっさらしの駅のベンチで、
東スポで身を包むようにしているサラリーマンが目に浮かぶ。

スポーツ新聞の名が俳句になるのは珍しいが、
俗語や流行語をいちはやくとりこむのが俳句の伝統。
だから、この句はとても伝統的だ。

そして、「大切に」は反俳句的に大胆。
普通はこのような思いの直接的表現は俳句では避ける。

今回、この句を取り上げたのは、
六尺さんへのアドバイスもあってのことだ。

六尺旦那は、
「思いの直接的表現」をつい使ってしまう。
初心者にはよくあることなので、
目を瞑ってあげたいのだが・・・。

この句の「大切に」は、
反則をしたことで、逆に一方の伝統(東スポ)が生きた例。

(寒さ・冬)
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by leilan | 2006-01-22 10:04 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 おでん煮ゆはてはんぺんは何処かな  辻征夫


「はんぺんは何処かな」という大袈裟な物言いのもたらす滑稽に俳味がある。

辻征夫の俳句は文句なく楽しい。
575で表現する楽しさが素朴にあふれており、
これは従来の俳句史に不足していたものではないだろうか。

次もおでんの句。

 東海の小島の磯のおでんかな

言うまでもなく啄木の歌を踏まえており、
おでんで飲みながら泣き濡れている泣き上戸の男のようすなどが目に浮かぶ。

貨物船と号して、おもしろい俳句をたくさん作った。

2000年1月14日死去。

(おでん・冬)
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by leilan | 2006-01-19 19:51 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 ストーブにビール天国疑はず  石塚友二


楽しさを開けっぴろげにした句。
「ビール天国」ではなくて、「ビール」と「天国」は切れている。

句意の説明はいらないだろう。
ことに、ビール好きの面々なら、思わずニヤリだ。
入浴の際に「ああ、ゴクラク、ゴクラク」と言うが如し。

天国ってのは、きっとこんな楽しいところなんだろう。
酒はうまいしネエチャンは綺麗だと、歌にもうたわれている。
無邪気に納得している作者のはしゃぎぶりがよく伝わってきて、
ビール好きの私には嬉しい句だ。

ただ、こういう句の評価は低いでしょうね。
「ひねり」がない。
屈託がない。
ついでに言えば、馬鹿みたいと。

どうも俳壇ではこうした明るい表現に点が辛い。
喜怒哀楽の「怒哀」ばかりが肥大して、
人間の捉え方が異常なほどにちぢこまってしまっている。

もっともっと野放図に放胆に明るい句はたくさん作られるべきで、
その積み重ねから「喜楽」に対する表現技術も磨かれてくる。

(ストーブ・冬)
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by leilan | 2006-01-18 17:34 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 さやうなら笑窪荻窪とろゝそば  摂津幸彦


季語は「とろろ」で秋だが、冬にも通用する句であろう。
物の本によれば、正月に食べる風習のある土地もあるそうだから「新年」にも。
ま、しかし、摂津幸彦はさして季節を気にしている様子はない。

「荻窪」は東京の地名。
「さやうなら」と別れの句ではあるけれど、明るい句だ。

「さやうなら」と「とろゝそば」の間の中七によっては、
陰々滅々たる雰囲気になるところを、
さらりと「笑窪荻窪」なる言葉遊びしているからだ。

さらりとした別れの情感を詠みたかったということ。
たとえば、学生がアパートを引き払うときのような心持ちを。

このときに「笑窪荻窪」の中七は言葉遊びにしても、
単なる思いつき以上のリアリティがある。
ここが摂津流、余人にはなかなか真似のできないところだ。

笑窪は誰かのそれということではなくて、
作者の知る荻窪の人たちみんなの優しい表情を象徴した言葉だろう。
行きつけの蕎麦屋で最後の「とろゝそば」を食べながら、
むろん一抹の寂しさを覚えながらも、
胸中で「さやうなら」と呟く作者の姿がほほえましい。

蕎麦屋のおじさんも「じゃあ、がんばってな」と、
きっとさらりと明るい声をかけたにちがいない。

いいな、さらりとした「さやうなら」は。

(とろろ・秋)
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by leilan | 2006-01-16 06:17 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 逢ひにゆく息の白さにおどろきし  加藤三七子


恋する炎はたとえどんなに寒い冬でも燃え上がる。
誰にも消すことはできない。

でも、大好きな人に会いに行く途中、
自分の吐いた息の白さに思わずびっくりしてしまった。

こんなに寒いのに、どうして私は飛び出してきたんだろう。
今夜会わなくたって、明日でもよかったのに。

でも、恋にためらいは禁物だ。
会いたい、と思った瞬間を逃してはならない。
あの人のもとへ走り出しているこの時は、
息の白さすら愉快に思えるのだ。

(白息・冬)
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by leilan | 2006-01-12 20:53 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 顔上げよつららがつらら着る夜も  櫂未知子


つららがつららを着る。

一度あたたかい日差しで溶けかけたつららが、
また厳しい寒さで凍ってしまう。

厳しい状況が続いていながら、
そんな夜でさえも顔を上げよと櫂未知子はいう。

毅然とした作者の横顔が見えてくるようで、
なかなかこちらも気構えさせられる。

しかしわたしは「寝てしまえ」派だ。

何をしていいのかわからないくらい厳しい状況に陥ったときは、
なにもせずに寝る。

そのうち、周りが勝手に変わっていく。
みんな、そろそろゆるりと肩の力を抜いてみようよ、
と声をかけてみたくなった。

(つらら・冬)
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by leilan | 2006-01-11 21:04 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 本買へば表紙が匂ふ雪の暮  大野林火


本好きの人に解説はいらないだろう。
以前から欲しいと思っていた本を、
ようやく買うことができた嬉しさは格別だ。

「表紙」をさするようにして店を出ると、
外は小雪のちらつく夕暮れである。

いま買ったばかりの本の表紙から、
新しいインクの香りがほのかにたちのぼって、
また嬉しさが込み上げてくる。

ちらつく雪に、ひそやかに良い香りが滲んでいくような幸福感。
この抒情は、若者のものだ。

林火、若き日の一句。

(雪・冬)
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by leilan | 2006-01-10 10:52 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 姫始闇美しといひにけり  矢島渚男


「誰がいったのか?」

と思わず突っ込みたくなるが、
ほのかなエロティシズムが漂ってくる秀句である。

「姫始(ひめはじめ)」は一般的には、
新年最初の男女の交わりを指す季語と受け取られている。
だからだろう、ほとんどの歳時記には載せられていない。
どうも歳時記はストレートなセクシーを嫌う。

「姫」という以上は、もちろん男からの発想で、
女の側から詠めば「殿始」かと言えばそうではない。
女が閨を語るのは、はしたいないという発想なのだろう。

歳時記の季語解説を読んでみると、

正月二日。由来は諸説があるが、
一説に『飛馬始』の意で、乗馬始の日とする。
別説では火や水を使い始める『火水始』であるとする。
また男女交合の始めとする説もある。

妥当な説としては、『■■始』
(註・「■■」の文字はJISコード外なので、
パソコンに表記されない。「米」に「扁」と「米」に「索」で「ひめ」と読む)
つまり釜で炊いた柔らかい飯である姫飯(ひめいい)を
食べ始める日とする説が挙げられる。
強飯(こわめし)を食する祭りの期間が終わって、
日常の食事に復するのが姫飯始、
略して『姫始』となったと考えられる。

と歳時記は解説するが、
「姫飯始」より、男女の「姫始」の方が俳句には作りやすい。

ところが、「姫始」の句を作る女流俳人はめったにいないのだ。
男の季語として男にばかり詠ませるにはもったいない。
いい季語なのに。

それとも淋しい暮らしなのか?!

(姫始・新年)
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by leilan | 2006-01-07 08:15 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 なんでこれしきのテレビと初泣きす  石川桂郎


お正月の季語には「初・・・」がたくさん登場する。

正月は何をするにも気持ちが新たになって爽やかだ。
でも、「初」のことだけに、納得のいかないことも多々ある。

初電話がガチャンと切れる間違い電話だったり、
初日記に訃報を記さなければならなかったり。

石川桂郎の初泣きはテレビ番組だった。
ぼんやり見ていたテレビ。
一大感動巨篇というわけでもないのに、
思わず泣いてしまう。

泣きながらも、
「ああ、なんでこれしきのことで初泣きしてるんだか・・・」
と納得いかない様子。

諧謔の一句。

(初泣き・新年)
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by leilan | 2006-01-06 18:47 | 秀句鑑賞


バッカスの神さまに愛されたい
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