カテゴリ:秀句鑑賞( 61 )

『秀句鑑賞』

 オリオンの盾新しき年に入る  橋本多佳子

 
オリオン座は代表的な冬の星座。
今の時期、夜、空高く光っているのですぐに見つけることができる。

しかし、掲句の季語は「新しき年」。つまり、新年である。

俳句を作ろうとする人が最初に面食らうのが、「新年」の季語の存在。
春・夏・秋・冬に加え、この時期だけに使う季語があり、
歳時記も5つ(春・夏・秋・冬・新年)の項目に分かれている。

だからといって季節が5つあるというわけではなく、
お正月がいかに日本人にとって大切な行事だったか、ということだ。

橋本多佳子は、新しい年になって、
オリオン座の盾も新しくなったかのようだ、という。
実際にはありえないことでも、こういう言い切りは俳句らしい。
俳句は断定の文学だといわれるゆえんでもある。

(新しき年・新年)
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by leilan | 2006-01-02 19:52 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 初湯中黛ジユンの歌謡曲  京極杞陽

昭和44年の作。
銭湯の初湯は江戸期から二日と決まっているが、
これは元日の家庭での朝風呂だろう。

機嫌よく口をついて出てきたのは、黛ジュンの歌謡曲だった。
なぜ、歌謡曲なのか。
もちろん、昨夜見たばかりの「紅白歌合戦」の余韻からである。

曲目は「雲にのりたい」あたりだろう。

作者の京極杞陽(本名・高光)は、
明治41年、京極子爵家の長男として生まれた。
但馬・豊岡藩主十四代当主。つまり、世が世であればお殿様である。

昭和19年、教育招集に応召したときの句。

春風や但馬守は二等兵

これまた、人を食った句である。
しかも、入隊、即日除隊。なにしろ子爵京極家十四代当主である。
格好だけの入隊であったのか。
戦後、宮内省を退庁、貴族院議員に選出。

しかし、お気楽な殿様人生かと言えば、かならずしもそうとも言えない。

十五のときに関東大震災で家屋敷を焼失、両親と兄弟を一度に失った。

しかし、血はあらそえないと言おうか、
その俳句は、おっとりして、飄々、洒脱。

ホトトギス一派の懐の深さを感じさせる。

(初湯・新年)
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by leilan | 2006-01-01 06:40 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 日本がここに集る初詣  山口誓子

 
みなさん、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

さて、新年といえば初詣。
元旦の朝のニュースは初詣シーンに始まるのが恒例だ。

人気の神社までわざわざ出かける人も多いようで、
テレビではその混雑ぶりが紹介される。

毎年、明治神宮に出かける友人の話によると、
「行く先も見えず、満員電車のような状態で、
まるで牛歩のようにゆっくりと惰性で神殿まで進んでいく」のだそうだ。
かなりの苦行だという。

今日ばかりは、あらゆる神社という神社の鳥居に向かって、
我らがニッポン人は突き進む。

私はホノルルはダウンタウンにある出雲大社まで行く。
しかし、ここにお参りするのは日系アメリカ人たちであり、
在留邦人の姿は少ない。

ダイエーで注連飾りやミニ門松を買い求めていくのも、
圧倒的に日系人であって、日本人ではない。
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by leilan | 2006-01-01 05:05 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 女房も同じ氏子や除夜詣  初代中村吉右衛門


初代播磨屋と千代夫人はともに浅草の生まれで、
氏神様は三社様だったという。

初代中村吉右衛門は伝説的な名優だが、
俳句も余技とは言えないくらい達者であった。
師系は高浜虚子。

昭和30年代くらいまで、「除夜詣」ということばが残っていた。

古来、日本の文化はいわば「日の出、日の入り文化」で、
一般には日の出を拝んでからのお詣りが「初詣」と考えられていた。

除夜詣は近隣の氏子たちが除夜の鐘を聞いて、
とくべつ着飾るわけでもなく、
普段着で気軽に地元の氏神様にお詣りに行くことであり、
それに対し初詣は晴れ着を着て、
日の出を迎えてからお詣りに行くものと、
ある意味で区別されていた。

播磨屋は、その神経質が禍して二度の結婚に失敗。
当時、浅草からでていた千代夫人は、
おっとりしたすれていない芸者だったという。
そこを松竹の大谷社長が買って、二人を一緒にさせたそうだ。

その夫婦仲のよさは掲句から伝わってきて、温かい。

(除夜詣・冬)
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by leilan | 2005-12-31 15:54 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 橇がゆき満天の星幌にする  橋本多佳子


途方もなくスケールが大きく、かつ見事に美しい情景だ。

童話の挿絵が作者の脳裏にあったのかもしれない。

見渡すかぎりの雪原、
そのなかを「満天の星」を「幌(ほろ)にして」行く橇。
息をのむように美しいシルエットの世界だ。

実景というよりも、幻想に近い。
いや、実景を幻想にまで引き上げた句と言うべきか。素敵だ。

遠望している作者の耳には、
おそらく鈴の音も聴こえていることだろう。

表現力のマジックを思う。
ロマンチスト・橋本多佳子、さすがのものである。

これが、明治32年生まれの女性の句ということに、今更ながら驚く。

(橇・冬)
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by leilan | 2005-12-25 08:30 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 スケートの濡れ刃たづさへ人妻よ  鷹羽狩行


作者は、「実はこの『人妻』は私の妻である」といい、
「"わが妻よ"とはせず『人妻よ』と呼びかけた」と、
この句の意図を語っている。

「濡れ刃」に、
スポーツに躍動した若きわが妻への親愛の情のこもる句であり、
しかも客観化させたことによって、
単なる愛妻俳句の狭さをまぬがれている。

一般的に愛妻俳句、吾子俳句というものが、
往々にして作者の思いばかりが先行し、
甘くなり客観性を持ちえず俳句としての切れが鈍くなることはいうまでもない。

(スケート・冬)
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by leilan | 2005-12-24 07:03 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』
  
 柔かき海の半球クリスマス  三橋敏雄


よく「俳句は自然を詠むものだ」というが、
街に流れるクリスマスソングを聴いて歳末を実感し、
テレビで『行く年来る年』を見て正月を実感する現代の日本人に、
大自然もへったくれもあったもんじゃない。

クリスマスソングや『行く年来る年』が、
わたしたちの体感する「自然」になっているのだろう。

というわけで、キリスト教と無縁な人々にとっては、
街角に並ぶケーキ売りを見て「クリスマス・イブ」を感じる日本。
今年は土曜日だから、街には主に男女のペアがあふれるのだろう。

目を転じてみると、地球規模でもクリスマスは祝祭日。

常に光と闇が半分ずつ存在するこの星。
聖なるものと俗なるものは常に表裏一体だ。

そのことを考えるのにいかにもふさわしい日なのかもしれない。

(クリスマス・冬)
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by leilan | 2005-12-23 18:13 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』
 
 話すことだんだん少な日向ぼこ  上野章子


けっしてケンカをしているわけではない。

冬の柔らかい日差しの中で、ぽかぽかと日向ぼっこを楽しむふたり。

はじめはたわいのない会話をしていたけれど、
しばしのんびりと日向ぼっこを堪能しよう、というわけだ。

恋愛の初期段階では、しゃべることはつきない。

今まで何してたの? 何が好きで、何が嫌い? 
一体、どんなことを考えているの? 

互いに質問攻めで、そんな時期もとっても楽しい。
でも関係が落ち着いてきたら、
日向ぼっこの時くらい、静かにお互いの存在を噛みしめていようね。

(日向ぼこ・冬)
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by leilan | 2005-12-21 12:01 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 林檎投ぐ男の中の少年へ  正木ゆう子


「宇宙のどこで生まれても男ってバカ・・・」

男はバカで、可愛くって、時々にくたらしい。

女はいつでも、男の中にある少年性を愛している。

でも、それを男に知られてはいけない。
男はすぐうぬぼれるから、あんまりいい気にさせられない。

だけど、時々は、
大人という鎧に隠れている男の中の少年に、
やさしくあいさつをしてあげたい。

林檎を投げたら、
彼の中の少年は、はっと目を覚ますだろうか。

(林檎・秋)
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by leilan | 2005-12-20 02:41 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』
 
 あこがれはオリオンの裏側のやみ  鎌倉佐弓


夜、オリオン座が南の天高くのぼるころになると、
冬だなあという思いを強くする。

天体望遠鏡を買ってもらった小学生のとき、
将来は天文学者になりたいと夢見ていた。
星の物語であるギリシャ神話を懸命に読んだのもこのころ。

「宇宙には果てがない」ということが実感できずに、
毎晩そのことばかり考えて過ごしたこともあった。

望遠鏡のレンズがくもり、
カバーがかけっぱなしになったのはいつからだろう。

夜毎遠い宇宙に思いを馳せていた少女は、
半径10メートルのことばかりに気を取られ、
会社の人間関係に四苦八苦し、
10年後のことはおろか、
明日のことすら想像することもできない現代人になった。

オリオンの裏側の闇に憧れること、
それはもう一度宇宙について思うこと。

そして大人になった少女は、
自分が存在していることの不思議にいまさらながら気づくだろう。

(無季)
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by leilan | 2005-12-19 09:06 | 秀句鑑賞


バッカスの神さまに愛されたい
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