カテゴリ:秀句鑑賞( 61 )

『秀句鑑賞』  

 柚子湯して妻とあそべるおもひかな  石川桂郎


冬至(今年は22日・木曜日)
習慣にしたがって柚子湯を立てた。

ゆっくりと湯槽に浸かると、浮いている柚子にふれる。
放つとまたひと回りして寄ってくる。
なにか遊んでいるような気分になって、
次第に気持ちも若やいでくる。

むかし、妻と湯に入り、
遊んだことを思い出してしまう。
なつかしい。

やさしい妻であった。

(柚子湯・冬)
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by leilan | 2005-12-18 07:13 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 窓の雪女体にて湯をあふれしむ  桂 信子


作者三十代の句。

女盛りの白い裸身が、浴槽の湯をざあっと溢れさせている。

外は雪。
この暖寒の対比から見えてくるのは、
作者の己が肉体への執着である。

女には己の肉体の盛りがわかるのだ。
翻って男はそういうことはあまりこだわらずに生きてしまうものであろう。

女は片時も、自分に肉体があることを忘れては生きられない。
現実に、少女になって月経がはじまり、
子宮から血を流すために苦しみ、乳房をはらせ、神経をも高ぶらせる。

浴槽の湯に、手も足も胸も腰もゆったりとゆだねる「女体」。

雪によってあらゆるものから隔絶されたそこで繰り広げられるしぐさの、
何と優雅で、豊満なことよ。

遠くない昔まで、女は男より後に風呂に入り、
そんなに満々とした湯は体験出来なかったことを考えると、
そこにある意味が出てくる。

(雪・冬)
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by leilan | 2005-12-16 17:02 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 鳥葬のなき世に群るる寒鴉  檜 紀代


鳥葬とは、死体を野に置いて、
鳥の食べるにまかせるという葬法のこと。
死体を大気にさらす風葬と組み合わせられているのだとか。

テレビで見た記憶があるが、意外にさらりとした印象を抱いた。
実際にはチベットとインドの一部でおこなわれるだけなので、
体験する機会もないだろう。

寒鴉の群れるさまを見て、
鳥葬がない世だから退屈そうだととらえたのか。

たしかに、鴉たちは、都市が死滅し、
気楽に飛翔できる日を淡々と待っているのかもしれない。

そのとき、葬るという意味はすでに失われているのだけれど。

(寒鴉・冬)
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by leilan | 2005-12-15 22:24 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 冬星を弾丸となし未成年  高野ムツオ


最近、母が電車で経験したこと。

一番端の座席に母が座っていた。
その座席の手すりにお尻を乗せて、
母にのしかかるような形で立っている少女の一群。

しばらく我慢したのち、
もう少し気を使ってほしい、と注意した母に向かって、少女は一喝。

「テメエ、うるせーんだよ、ざけんじゃねーよ、
言いたいことあるんだったら最初から言えよ、このクソババア!」

娘の私と違って、母は穏やかな人だから、
やんわりと注意したことだろう。

いたたまれなくなった母は、電車を降りようと席を立った。

すると、彼女たちは爆笑。
そして、「このババア、めちゃくちゃ腹立つー」
「でも、まあいいじゃん、話のネタがひとつできたと思えば」。

二十一世紀、未成年の弾丸は、地球を滅ぼしてしまいそうだ。

(冬星・冬)
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by leilan | 2005-12-14 21:03 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 鯛焼のまず尾の餡をたしかめし  能村登四郎


尾まで餡がつまっていなければ、鯛焼とはいえない。

買ったばかりの熱々の鯛焼を、
さっそくちぎってそれを確かめる作者。

俳句は、作者の人柄、風貌を知っていると、
よりおもしろくなる不思議な詩である。
むろん、良い俳句は背後に作者個人など見えなくてもいいのだが。

掲句だって、十分句そのもののユニークさを楽しむことができる。
ただ、作者・能村登四郎の風貌をご存知の人なら、
楽しさは100倍、といったところだろう。

大先生も、鯛焼の餡が尾までつまっているかどうかは、
やっぱり気になるのだ。

(鯛焼・冬)
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by leilan | 2005-12-14 07:27 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 雪国の言葉の母に夫(つま)奪はる  中嶋秀子


姑と嫁の争いは、永遠に絶えることがないだろう。

姑、つまり母親は、
夫の若いころによく似たわが息子がかわいくてしょうがない。
加えて、娘と違い、息子は異性だからかわいいのだ。

嫁は、といえば、
女として夫を我がものにできるのは自分だけだと分かってはいても、
義母に対して永遠に越えられない何かを感じている。

そして男は、
傾向として母親の味方をして妻に我慢を強いる人が多いようだ。
現代は幾分、違って来ているのかもしれない。

夫の故郷である雪国に共に帰った妻。
姑と夫は慣れ親しんだ言葉で楽しそうに語りあうが、
雪国出身ではない自分は会話に加わることができない。

そしてこの句は、ただ言葉の違いではない、
母と息子という親子の重ねてきた年月をすら感じさせる

(雪国・冬)
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by leilan | 2005-12-13 18:48 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』
 
 凍蝶のふと翅つかふ白昼夢  野澤節子


女学校時代に脊椎カリエスを病み、
中退して長い間病にふせっていた作者は、
それゆえ自己の内面を見つめる冷徹な視点を持ち続けることができたと、
後に述懐している。

凍蝶は、冬の蝶のこと。
寒さゆえ、じっとどこかにとまっている蝶のことを、
まるで凍っているようだというのでこう表現する。

凍っているかに見えた蝶が、ふと羽を動かした。
そう思えたのは、あるいは夢だったのか。

この句を作った頃は完治していたようだが、
今の自分を白昼夢のようだと作者は意識下で感じていたのかもしれない。

生の一瞬一瞬は、いかなる人にも平等だ。

(凍蝶・冬)
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by leilan | 2005-12-12 16:53 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

  へろへろとワンタンすするクリスマス  秋元不死男


日本のクリスマスは、すでに明治後期から大正期にかけて普及していた。
キリストのことにつまびらかではないという思いを、誰しもが抱きつつも、
宗教ではなく民間風俗として、日本社会に深く根付いた。

人々が浮かれている夜に、
「へろへろ」とワンタンをすする不死男の眼には、
どう見てもクリスマスは富者の繁栄としか映らなかった。

社会の貧困や矛盾を見つめ、その諸相をリアリズムの眼で、
俳句に昇華させることが不死男の願いであった。

しかし、そうした願望への努力が、思わぬ不幸をもたらした。

昭和15年の京大俳句事件にはじまる特高警察の新興俳句弾圧である。

京都で西東三鬼が検挙され、
翌16年2月に横浜で逮捕された不死男は、
治安維持法違反で起訴され、
18年2月まで東京拘置所の独房に入った。

掲句は、昭和23年頃の作。

七面鳥などの華やかなクリスマス料理を尻目に、
不死男はワンタンを食したが、
これには一理ある。

中国の庶民は冬至にワンタンを食べる。
それがクリスマスの時期とほぼ一致する。

つまり、不死男のワンタンは、
貧しい庶民の東洋風儀礼食の象徴だったのである。

(クリスマス・冬)
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by leilan | 2005-12-11 10:15 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 ダンサーになろか凍夜の駅間歩く  鈴木しづ子


戦後の俳壇にすい星のように登場して、
すい星のように姿を消してしまった「幻の女流俳人」がいる。

鈴木しづ子。

  
  夏みかん酸っぱしいまさら純潔など


「娼婦俳人」「情痴俳句」とも呼ばれる。

流転に次ぐ流転の人生であった。

女学校を卒業し、設計事務所に勤務。
俳句同好会に誘われ、婚約者になる男と会う。
結婚十日で、夫は召集され、戦地で亡くなる。

岐阜の米軍基地の町に流れ、
ダンサーとして働くが、句作は続けた。
黒人兵との恋もあった。


  まぐはひのしづかなる雨ゐとりまく


大正八年六月九日、東京・神田に生まれた。
父は熊谷組に勤める普通のサラリーマン家庭であった。

基地の町ではダンサーの後、基地のタイピストになった。


  タイプ打って必死の夏を過ごしけり


その通勤途中、子どもたちと仲良くなり、
宿題をみたり、遊んだりした。


  雪の日の弁論大会少年好し


しづ子の落ち着いた生活と心境がよく伝わる。
この間、故郷の愛知県犬山の寺に母の墓も建てている。

第二句集「指環」を刊行。
その出版記念会のため昭和二十七年三月、しづ子は上京した。
この日を最後に消息を絶つ。

基地の町を引き払い、北海道に渡り、函館から小樽に。
ここで北海道の句誌に、
群木鮎子のペンネームで投句、何回か掲載された。
ところが、この句が作風が 似ていることから、
しづ子の作ではないか、といわれ始めた。

投句はピタリ止んだ。

このあと消息は絶える。
米国に渡ったとも考えられるが、
ナゾのままである。

(凍夜・冬)
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by leilan | 2005-12-10 16:14 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 叱るほか言葉を知らず蜜柑むく  木村蕪城


優しさを上手に表わせない人がいる。
本当は溢れそうな愛情を、隠してしまう人。

大切な人と一緒にいて、好きで好きでたまらなくても、
けっして言葉や態度に出せず、
かえってぶっきらぼうに振る舞ってしまう。

親が子供に、夫が妻に、恋人が恋人に。
優しい言葉をかけたくても、身近な存在すぎて照れ臭い。

口調は叱っているようでも、心の中では心配しているのだ。

上手に表わせないもどかしさから、
つい蜜柑をむきはじめて。

(蜜柑・冬)
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by leilan | 2005-12-09 13:59 | 秀句鑑賞


バッカスの神さまに愛されたい
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