カテゴリ:秀句鑑賞( 61 )

『秀句鑑賞』
 
 難しき縁談と思ふコート脱ぐ  今井つる女

まさか自分の縁談ではないだろう。

自分のことにしては、
「難しき」なんていくら俳句とはいえ客観的過ぎる。
ということは、他人か自分の子供、といったところか。

しかし、自分の子供にしても、
どうも冷静過ぎるような気がするので、
ここは他人の縁談を世話した、
というシチュエーションで考えてみよう。

知り合いの娘さんに、良い人がいるから、とある男性を紹介した。
ところが、いざ二人を引きあわせてみると、
この縁談はどうも難しいような気がしてきた。
やっかいなことになったなあ、と帰宅してコートを脱ぐ作者。

これが自分の子供の縁談では、
話はもっと深刻になってしまい、
「コート脱ぐ」の季語が生かされないと私は思う。

他人のことだからこそ、
「面倒なことになった」と、
苦々しい顔でコートを脱ぐ様子がおもしろくなってくるのだ。

今井つる女は高浜虚子の姪にあたる。

子供の頃、小田原の風祭でつる女さんにお逢いしたことがあった。
当時、風祭に娘の今井千鶴子さんが住んでおられ、
そこにつる女さんはよく訪ねてこられた。
その隣家に伯母が住んでいたことがあって、
そんな事情で御目文字したのだった。
上品で美しいおばあさんだった。

(コート・冬)
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by leilan | 2005-12-09 02:28 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』
 
 ゆるやかに海がとまりぬ暖房車  加藤楸邨


暖房は冬の季語、
といってもあまり情緒が感じられないが、
むかしは寒い戸外から暖房の効いた室内に入ると
夢のようにあたたかいと感じたものだったろう。

掲句の暖房車は、きっとローカル列車。
旧式の列車で、地元の人がぱらぱらと乗っている。

海沿いにしばらく走っていたが、駅が近づいて停まった、
そのようすを海がとまった、と表現した。

この列車の中で、旅人は作者ひとりだけだったのかもしれない。
ゆるやかに、という表現が作者の心情をも言い留めている。

過ぎゆくいまという瞬間を、
切り取ってピンで留めたような鮮やかさ。

わたしたちは、ひととき楸邨とともに、
同じ列車に乗り合わせたような錯覚に陥る。

加藤楸邨、さすがのものである。

(暖房・冬)
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by leilan | 2005-12-08 00:02 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』  

 わがための珈琲濃くす夜の落葉  福永耕二


地球の引力で落ちていく枯れ葉。
ただ上から下へ落ちていくだけで、人の心を震わせるのはなぜだろう。

カサッという音が胸の中に大きく響く。

人間はロマンチックな生き物だ。

自分のためにゆっくりと、濃いめに入れた珈琲。
物思うとき、珈琲は濃いめがいい。

もう日の落ちて暗い外からは、
枯れ葉の落ちるかすかな音のみが聞こえて、
嫌が上でも感傷的になる。

ゆらゆらする心をなんとか支えるための、濃い珈琲。

苦さは自分への戒めのようだ。

(落葉・冬)
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by leilan | 2005-11-30 16:44 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』  

 手袋に五指を分ちて意を決す   桂信子


そろそろ手袋が欲しい季節。

手袋をはめるとき、キリっと気分が引き締まるのはなぜだろう。
5つに分かれた指先に1本1本、しっかり指を入れる様子は、凛々しい。

これは作者が師・日野草城との永別の折の句だという。

もはや頼るべきものもない。
後は自分ひとりで歩んでいかなくてはならない。

決意を固めるための小道具として、作者は手袋を選んだのだ。
黒衣に身を包み、しっかりと手袋をはめるひとりの女性の姿が美しい。

(手袋・冬)
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by leilan | 2005-11-29 18:02 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』

 「The Long and Winding Road」 渋滞に時雨くる  正木ゆう子


初冬のにわか雨のことを時雨という。

車の運転席か、助手席か。
テールランプが連なっている。

雨が降り出した。
静寂にワイパーの音。

カチリとラジオのスイッチを入れると、
昔聴いたビートルズの曲。
ふっと、昔のことが心をよぎったかもしれない。
それが何なのかは図る由もないけれど。

曲は、
「The Long and Winding Road」

もしかしたら、今の状況を言い当てられたような気分になったのかも。

これからまた長い冬がくる。

(時雨・冬)
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by leilan | 2005-11-28 11:35 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』  総立ちのバイアグラ友の会総会

 総立ちのバイアグラ友の会総会  渡辺隆夫


これは川柳。可笑しい!

バイアグラ友の会というのが実在するのかどうか、
それは知らない。

ただ、バイアグラの効き目に感謝して、
バイアグラさまさまと思っている人たちが、
一堂に会してその効き目のほどを披露し合っている、
と考えると愉快(笑)

ともあれ、
「総立ち」には男根の総立ちが重なっており、
なんとも壮大、そしてチン妙な光景でもある。

引用の句では、
「総立ち」に2つの意味がかけられているほかに、
「総」の字を2回使ったリズムの上での遊びがある。
もちろん、快いリズムは総立ちの喜びを表している。
 
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by leilan | 2005-11-27 19:50 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』  ヘッドホンして冬ごもりするこころ

 ヘッドホンして冬ごもりするこころ  石田郷子


人間はべつに冬ごもりなどしなくてもいい。

だからこの句は冬ごもりをする「こころ」に
焦点を当てているのだ。
いっそのこと冬ごもりしてしまいたい、
と厭世的にヘッドホンをする作者。

心理学者に言わせれば、
若者が電車なり町中なりでヘッドホンをして音楽を聴いているのは、
世間との交わりを断ちたいからだ、と。
純粋に音楽を聴きたいだけの人もいるだろうから、
その意見は大当たりというわけでもないけれど。

確かに、雑踏の中でヘッドホンをしていると、
自分一人の世界に入り込むことができる。
誰ともしゃべりたくないの、
今だけちょっと冬ごもりしていたいのよ、と。

(冬ごもり・冬)
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by leilan | 2005-11-25 05:08 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』  きめかねし人事一日をふところ手
 
 きめかねし人事一日をふところ手  清水凡亭


「きめかねし人事」で軽く一呼吸、
「一日(ひとひ)をふところ手」と読んでほしい。

清水凡亭は、出版社の社長職にあった人。
洒落者として知られた。

「懐手」は、寒さしのぎに懐に手を入れることで、
和服のときに使われる場合が多い冬の季語だ。

あいつをこっちに、こいつはあっちに、
とパズルのようにはいかない人事。
誰もが納得できる結果などあり得るはずがない。

懐手をして、一日悩んでしまうのは、
きっと作者が優しい人だから。

悩んでいる本人を前に、
読者であるわたしたちには、なんとなくほほえましい感じもする句だ。

しかし、人事異動の噂というのは、
なぜ、光速より早く伝わるという性質を持つのだろう。

(懐手・冬)
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by leilan | 2005-11-23 19:08 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』  かりに着る女の羽織玉子酒
 
 かりに着る女の羽織玉子酒  高浜虚子



虚子もなかなかやるじゃん(笑)

玉子酒というからには、少し風邪気味なのだろう。
虚子のことだから、きっと家人か娘が作った玉子酒に違いない。

ちょっと寒気がしたので、
そこらにあった女物の羽織を引っかけてみた。
咳の一つもしたのだろうか。

あるいは、ひょっとして、妾宅? 
かいがいしく玉子酒を作る女の羽織なのか。

どちらにしても、なかなかエロティック。
風邪をひいて玉子酒を飲む、という日常的な行為が、
「女の羽織」でとたんにドラマになった。

さすがに、虚子はうまい。

(玉子酒・冬)
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by leilan | 2005-11-22 21:33 | 秀句鑑賞

『秀句鑑賞』  
 
 死後も月はある筈雪を見てゐたり  永田耕一郎


雪が降っている。

これを見ているのは、生きて目を見開いているからだ。
が、死んだらこの雪を見られないのだろうか。

そんなはずはないだろう。
霊魂は生きているはずだから、
草場の陰から、雪を見ているはずだ。
そういうふうに、できることなら信じたい。

不思議な句であるが、
一気に読み下してみると、つい首を下ろしてしまいたくなる。

(雪・冬)
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by leilan | 2005-11-21 06:27 | 秀句鑑賞


バッカスの神さまに愛されたい
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