碁仇の屋敷にいっちょ火の用心
白鳥や殉教の空ふり仰ぐ
ねんねこの夢ごと降ろす温さかな
うちのオヤヂは大酒飲みなのだが、
酒に飲まれるということが全くない人だった。
ところが、わたしが中学生のとき一度だけ、
泥酔してよそのおじさんに送られて来たことがある。
茶の間の隣にあった和室に、
母が急いで布団を敷いて寝かせた。
またたく間に、大イビキを掻いて、
家族の心配をよそに呑気なものだった。
ちょうど今ぐらいの季節で、
わたしは期末試験の勉強を茶の間でしていた。
母は仕舞い湯の後に、お風呂場を掃除して、
わたしにコーヒーを淹れてくれた(ネスカフェだが)
いつものごとく、
「12時前には寝なさいね」
と、言い残して二階へ上がっていった。
だいぶたって、
隣の部屋がガサゴソして、オヤヂが起き出したようだった。
そして、いきなり、
「ママさん、世話になった。俺、帰るから」
なんて言うので、
気でもふれたのかと心配して、
慌てて襖を開けたら、
オヤヂはきちんとネクタイを締め直して、正座していた。
どうも、バーのママさんちに泊まっていると勘違いしたらしい。
この一件は未だ母には内緒にしている。