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俳句  初雀来てをりパンの屑欲しく

初雀来てをりパンの屑欲しく

二日はやジムで汗してアメリカ人

ブッシュありゃ猿廻しだと思ふべし

真新しキャミソールかな着衣始  (着衣始・きそはじめ)

二人して福茶飲みし日思ひけり


人間、明日のことは判らない、とつくづく思う。

二十代の後半、わたしにも婚約者という人がいた。
わたしより十二歳年長の人だったが、
気持ちのさっぱりした男だった。
あのまま結婚していれば、けっこう仲のいい夫婦になれたと思う。
当時、子の産めぬことを気にしていたわたしに、
「子供が欲しくなったらアダプトしたらいいよ」
とさりげなく言ってくれるような男だった。

思えば、不思議な出会いだった。
朝の通勤電車で痴漢に遭うことがよくあった。
とくに、御茶ノ水で乗り換える中央線はひどかった。
あるとき、わたしの後ろに立っていた男が、
自分の膝をわたしの膝の間から滑り込ませて来た。
イヤでイヤでたまらないのだが、
ギュウギュウで逃げ場がない。

そのとき、わたしの前に立っていた人が痴漢に気付いて、
わたしの身体をギュッとドアの方に押し出してくれた。
ありがたかった。

その人もわたしも東京駅で下車したので、
わたしは後を追いかけて、お礼を述べた。

その人は丸の内側に、わたしは反対の八重洲口に別れた。

その日の仕事を終えて、東京駅1番ホームにいくと、
なんと、朝、痴漢から守ってくださった人がいる。
相手もわたしに気付いて、
「やあ、いま、お帰りですか」
と、気さくに声をかけてくれた。

彼は、これから、登山の準備に借りてある場所まで行くという。
今度カラコルムに昇るんですよ、
あ、よかったら、一緒にいきませんか、
むさくるしい山男が一杯ひっかけながら、準備してるんですが、
面白いヤツばっかりですから、紹介しますよ。

山男なんて、ちっとも興味なかったが、
面白そうだと思った。
同時に、相手の人柄に正直なものを感じていた。
彼はサラリーマンだったが、
山ばっかり登っているから、出世にはほど遠い、と笑っていた。

それから、なんとなく交際が始まって、
二年、交際が続いた。
お互いの家族にも紹介して、
反対者もなくとんとん拍子に進んだ。

彼は週末になると山に行くので、
世間一般の男女のようなスタイルではなかったが、
わたしも自分のやりたいことが一杯詰まった女なので、
お互い、好きなことをしていた。
たまに、昼休みに約束して、
日比谷公園でお弁当食べたりもした。
筑前煮なんか喜んで食べる人だった。

彼らが半年もかけて準備した海外遠征に旅立つ日、
わたしは成田まで見送りに行った。
帰って来たら、結納を交わすことになっていたので、
彼は、成田空港のゲートで、大きく手を振って、
「帰ったら、嫁さんになれよー」
と叫んで、
仲間のひとり・晴やんが大声で、
「娘さん、よく聞けよ、山男にゃ惚れるなよ」
と唄って、一同ドッと大笑いした。
それが、最後となってしまった。

娘さん よく聞けよ 山男にゃ惚れるなよ
山で吹かれりゃよーぉ 若後家さんだよ

本当に、明日のことは判らないと思う。

その後、わたしにも幾つか恋もあったが、
帰国すると多摩霊園にお墓参りに行く。
そこに彼のお骨はないのだが、
よくしてくださったご両親のお骨が入っている。

一度でいいから、エベレストの傍まで行ってみたい、
と思うようになるまで足掛け10年かかった。

いまは落ち着いて、こうしてブログに書けるまでになった。
時は最高の薬だと、つくづく思う。
by leilan | 2005-01-03 11:51
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バッカスの神さまに愛されたい

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