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俳句  麦は芽に男は風になりにけり
やはらかき風呂吹き大根あわわわわ

麦は芽に男は風になりにけり

乳房も花びら餅もうすあかり


前に森田療法の本を読んんでいたら、
相談に来た人が、
これこれの事情である男を殺してしまいたいと思うんだけど、
そう思うのが後ろめたい、というふうなことを言う。
すると、相談された人が、

それは気分です。気分というのは過ぎ去るんだから、
そのままにしておきなさい。
別にいいとか悪いとかは思わないようにして、
気分があるんだということを認めていれば、
それでいつかは変わりますよ。

と答えているのを読んで、非常に感心したことがあった。

わたしは、人を殺したいと思ったことはないが、
しかし、そうした気分というものは、
日常生活でしょっちゅう起こるものだ。

夫婦や恋人同士がけんかをすれば、
もうそれこそ別れたいと思う。
上司や同僚と軋轢があれば、
こんな会社やめてしまいたいと思う。
周囲から差し出がましい口をはさまれれば、
なんだこの人と思う。

感情というものは意識化されているわけで、
悲しいとか、腹が立つとかいうように言葉にできる。

ところが、それ以前の動き、
名前の付けられない動きというものがある。
それを勝手にエモーションと呼ぶとすれば、
心の中ですごいエモーションが動くときがある。

やがてそれが意識化されてきて感情になっていく。
そして、さらに洗練されていくと、
いろんな表現の筋道ができたり、
インテグレーション(統合)が行われる。

たとえば夫婦であれば、
別れてしまいたいという感情と、
長い間一緒にやって来たんだから、
いまさら別れることもないか、
といった相反する感情が全体として統合されていく。

このエモーショナル・インテグレーションが、
前述の森田療法のアドバイスにある、
気分というものは過ぎ去るんだから・・・
ということであるのかもしれない。

これが出来ている人というのは、
非常に強いし安定感があると思う。

そして、わたしの俳句はたぶん、
エモーショナル・インテグレーションの一方法で、
そもそも、俳句との出会いは精神病院であった。

友人の娘が一時期、神経を病んで入院していたことがあった。
母親である友人とこの娘の関係がギクシャクしていたこともあって、
よく娘が、わたしにSOSの電話を入れてくるので、
うちに預かったりもしていた。

で、もう大丈夫かなという頃に家に戻すと、
またSOS・・・ということを繰り返しているうちに、
とうとうひどい鬱状態に陥ってしまって入院。
その病院に俳句クラブがあった。

主治医に伺うと、
俳句でも短歌でも、あるいは日記でも、
感情を言語化する行為は自己治癒力になるのだという。

そう考えると、ブログを書くという行為も、
我々は知らず知らずのうちに、
エモーショナル・インテグレーションを行っているのかもしれない。

ところが、この過程で失敗することもあるのだという。
それは、ネガティブな感情を抑えようとするあまり、
悲しいのに、無理して悲しくない、なんて思い込もうとする。
悲しむことに悪の概念がひっついてしまっているので、
悲しくないと、思い込もうとするのだ。

そういう感情が抑圧されて溜まると、
いつか、洗練されない形でダーッと出て来て、
非常な破壊力へとなっていく。
それが怖い。

だから、ネガティブな感情も、
あるものはあるものとして受け入れていく。
その方が、全体としてのインテグレーションが、
うまくいくんじゃないかと思う。
ネガティブな感情も、ポジティブな感情も、
同時に働かせながら、
どう全体として統合させていくかが大事なのだろう。

もう30年以上も前に観たテレビが忘れられない。
画家の司修さんと童話作家の松谷みよ子さんが、
<カラスになった坊さま>という絵本の話をしていた。

この絵本は、松谷さんが終戦後に、
信州の田舎で聞いた話が、きっかけになっている。

戦前はカラスが物凄くたくさんいたのに、
終戦後、急にいなくなった。
「どうしていなくなったんだろう」と訊ねると、
あるおばあさんが、
「あれは坊さんになって南方にお弔いに行った」
と話してくれる。
みんな、南方で息子とか夫をなくしている。

それを聞いて、松谷さんは非常に感激したという。

それから、東北へ行ったら、
そこでもカラスが急にいなくなっていて、
「あれはシベリアへお弔いに行ったんだよ」
と言う。
東北のその辺りの人々はシベリアで死んでいるのだろう。

ひとつも論理性などないのだが、
昔の民衆の感情としてぴったり来るものがあるし、
そういう意識化というものは、
人を悲しみから救うのではないか。
普通に生きるための心のクスリのような気がするのだ。
by leilan | 2005-01-22 20:15
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バッカスの神さまに愛されたい

by leilan
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