背ナの子の瞳に合歓の花ひらく 麗蘭
昔から、実家の庭には合歓の木があった。
合歓の花は、梅雨があがると、
夕暮れの薄明かりの中で、
細い糸を無数に集めたような淡紅色の美しい花をひらく。
葉は多数の小葉からなる羽状複葉で、日暮れには閉じる。
幼い頃、わが家には大叔父が同居していた。
祖父は男ばかり四人兄弟の長男で、大叔父は三男坊。
この男、生涯妻帯することがなかった。
要は、遊び人だったらしい(笑)
葭町の芸者とねんごろだったとか、
そっち方面の逸話には事欠かない大叔父だったが、
私が幼い頃には、すっかり年貢を納めていた。
ジイジイと呼んでいた大叔父は、
夕涼みがてら、私をおんぶしてよく近所を散歩した。
合歓の花というと、ジイジイの背中を思い出す。
ある日、
ジイジイがポストに手紙を投函した。
「誰にお手紙出すの?」
「ジイジイの友達の八木さんに出すんだよ」
「エッ! 食べられちゃうよ」
「どうして?」
いきなり私は、
♪白ヤギさんからお手紙ついた
黒ヤギさんたら読まずに食べた
と、歌いはじめたそうだ。
どうも、八木さんを山羊さんだと思い込んだらしい。
当の八木さんが、この話をおもしろがられ、
勤務されていた海運会社の社内報に書かれたものが、
今も私の手元にある。
ケネディがダラスで銃弾に倒れたその日、
ジイジイは亡くなった。
その生涯、どうもお酒を飲み過ぎたのだろう。
肝硬変だった。
また、ぼちぼちと書き進めてまいります。
どうぞよろしく。