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『俳句』  うそ寒し恋人爪を深く剪り

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              うそ寒し恋人爪を深く剪り  麗蘭





『俳句』  うそ寒し恋人爪を深く剪り_b0048657_10313020.jpg「車谷長吉句集 改訂増補版」(沖積舎)を頂戴した。

風変わりなのは巻末に「ぼんくら おわびと訂正」が入っているところだ。これはご存知のかたも多いかと思うが、一昨年に車谷俳句に対する盗作批判があった。車谷はこの「おわびと訂正」の冒頭で大変素直に盗作についてわびている。
.....かつて読んだ句が無意識の記憶となり、他人の言葉がある時自分の言葉として出て来た.....、というのはけっして言い訳ではなかろう。

俳人であれば経験していない人のほうが少ないのではないか。

だがこの文章はこれだけでは終らないのである。
さすがと言うか、何と言うか、やはり一筋縄ではいかない男だ。

人間はおぎゃあと生れて来た瞬間に、言葉を記憶している人は一人もいない。誰でも生れて来たあとで、他人の言葉を聞き、読み、書きして、言葉を習得するのである。従ってはじめから自分の言葉を所有している人は一人もいない。元を糺せば、私たちが所有している言葉は、すべて他人の言葉である。それをいつしか自分の言葉のように錯覚して、人は生きているのである。私が物を書いている言葉も、こんど恩賀とみ子さんが書き連ねられた罵詈雑言も、みな元を糺せば、他人の言葉である。 
車谷長吉 「ぼんくら おわびと訂正」より

あはは。
車谷は、あやまっているそばからもうこれなのだ(笑)
あやまることよりも、この一文を書くことが目的だったのだろう。

この文章は句集用に書かれたものではなく、
「新潮」平成16年2月号に発表したもので、
この文章にいちじるしく名誉を毀損されたとして、
恩賀とみ子なる人物が訴えたのである。

車谷の「金輪際」という作品集に『変』という短編が入っている。
そこに芥川賞を車谷から奪った保坂和志に別の受賞式で出会い、
深々と頭を下げる場面が出てくる。

そこで車谷が書く。
「併し私の中の保坂氏を忌む感情は少しも薄れなかった。
そういう謂れのない人々を忌む感情が、
絶えず血みどろに私を切り裂いていた」

なんとも恐ろしいところのある人だと思う(笑)
この「恐ろしい」は賛辞である。

『俳句』  うそ寒し恋人爪を深く剪り_b0048657_11324789.jpg慶応のドイツ文学を出て広告代理店に入り、すでに小説を書き始めるのだが、いったん関西で下足番や料理番(京都「柿傳」)をして、「鹽壷の匙」で芸術選奨の新人賞と三島由紀夫賞をとって脚光を浴びた。

と書けば簡単だが、執念深くなければ「鹽壷の匙」には至らなかったはずだ。

芥川賞を奪った保坂和志に深々と頭を下げる車谷長吉が、
恩賀とみ子なる人物に訴えられる元となった文章を、
句集に再度掲載するのは、さすが車谷で、やっぱり恐ろしい人だ。


  幻に憑かれしままに秋の声     車谷長吉

筑紫磐井がこの句集の解説を書いている。
 《「小説」が「業」であるとすれば、「俳句」は業ではない、「遊」だろう。しかし、その俳句にも、車谷氏の私小説の文体や素材選択がはっきり現れているから、遊俳であっても余技ではなく、どこか暗く、息詰まった車谷氏独自の世界を示している。》 筑紫磐井

車谷は、奥さん(詩人・高橋順子)と二人で句会をしているらしい。




 句集「因業集」より八句   車谷長吉


 墓石に猫寝る昼や夏木立


 目高喰ふ水かまきりを手ですくひ


 名月や石を蹴り蹴りあの世まで


 こぞことし煩悩さする耳の垢


 雨だれに抜け歯うづめる五月闇


 職を捨て夕立ち道を逢ひに行く


 寝巻き乾す播州平野に野分きかな


 秋の蝿忘れたきこと思ひ出す




 
by leilan | 2005-10-17 11:20 | 俳句
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バッカスの神さまに愛されたい

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