あこがれはオリオンの裏側のやみ 鎌倉佐弓
夜、オリオン座が南の天高くのぼるころになると、
冬だなあという思いを強くする。
天体望遠鏡を買ってもらった小学生のとき、
将来は天文学者になりたいと夢見ていた。
星の物語であるギリシャ神話を懸命に読んだのもこのころ。
「宇宙には果てがない」ということが実感できずに、
毎晩そのことばかり考えて過ごしたこともあった。
望遠鏡のレンズがくもり、
カバーがかけっぱなしになったのはいつからだろう。
夜毎遠い宇宙に思いを馳せていた少女は、
半径10メートルのことばかりに気を取られ、
会社の人間関係に四苦八苦し、
10年後のことはおろか、
明日のことすら想像することもできない現代人になった。
オリオンの裏側の闇に憧れること、
それはもう一度宇宙について思うこと。
そして大人になった少女は、
自分が存在していることの不思議にいまさらながら気づくだろう。
(無季)