姫始闇美しといひにけり 矢島渚男
「誰がいったのか?」
と思わず突っ込みたくなるが、
ほのかなエロティシズムが漂ってくる秀句である。
「姫始(ひめはじめ)」は一般的には、
新年最初の男女の交わりを指す季語と受け取られている。
だからだろう、ほとんどの歳時記には載せられていない。
どうも歳時記はストレートなセクシーを嫌う。
「姫」という以上は、もちろん男からの発想で、
女の側から詠めば「殿始」かと言えばそうではない。
女が閨を語るのは、はしたいないという発想なのだろう。
歳時記の季語解説を読んでみると、
正月二日。由来は諸説があるが、
一説に『飛馬始』の意で、乗馬始の日とする。
別説では火や水を使い始める『火水始』であるとする。
また男女交合の始めとする説もある。
妥当な説としては、『■■始』
(註・「■■」の文字はJISコード外なので、
パソコンに表記されない。「米」に「扁」と「米」に「索」で「ひめ」と読む)
つまり釜で炊いた柔らかい飯である姫飯(ひめいい)を
食べ始める日とする説が挙げられる。
強飯(こわめし)を食する祭りの期間が終わって、
日常の食事に復するのが姫飯始、
略して『姫始』となったと考えられる。
と歳時記は解説するが、
「姫飯始」より、男女の「姫始」の方が俳句には作りやすい。
ところが、「姫始」の句を作る女流俳人はめったにいないのだ。
男の季語として男にばかり詠ませるにはもったいない。
いい季語なのに。
それとも淋しい暮らしなのか?!
(姫始・新年)